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松山地方裁判所 昭和43年(ヨ)323号 判決

申請人

芥川重喜

右訴訟代理人

三好泰祐

被申請人

四国電気工事株式会社

右訴訟代理人

藤山薫

主文

被申請人は申請人を従業員として仮に取扱い、申請人に対し金四七万四、三〇三円および昭和四七年六月二五日限り金三万六、三六一円ならびに昭和四七年七月一日以降本件本案訴訟の第一審判決の言渡があるまで毎月二五日限り一ケ月金四万六、三六一円の割合による金員を仮に支払え。

申請人のその余の申請を棄却する。

申請費用は被申請人の負担とする。

事実

〈省略〉

理由

一申請の理由12は当事者間に争いがない。

二被申請人主張4(懲戒手続)について判断する。

会社愛媛支店では合併前の旧伊予電気工事株式会社の就業規則を適用すること、申請人の懲戒解雇にあたり昭和四三年六月二八日除外認定申請が拒否されたことについては当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、就業規則第七六条第六号に「懲戒解雇、行政官庁の認定を受け即時解雇する」、同第五二条に「従業員が左の各号の一に該当するときは三〇日前に予告するか又は三〇日分の平均賃金を支給して解職する(本文)。但し第五号により解職する場合は予告又は平均賃金の支給は行わない。(但書)。懲戒委員会の決定により懲戒解雇処分に付せられたとき(第五号)。」と規定されていること、他に懲戒解雇できる旨の規定のないことが認められる。(関連条文別紙参照)

本件懲戒解雇処分につき行政官庁の認定を受けていないこと前述のとおりであるが、会社は右第七六条第六号は即時解雇する場合行政官庁の認定を得なければならない旨の労働基準法第二〇条第三項の趣旨を規定したにすぎず、行政官庁の認定が得られなければ懲戒解雇できないことを規定したものではなく、平均賃金三〇日分を支給すれば懲戒解雇できる旨主張し、本件懲戒解雇の根拠を労働基準法第二〇条第一項本文、就業規則第五二条本文および第五号に求めている。

なるほど、労働基準法第二〇条第三項の趣旨は、同法第一一四条、 第一一九条の制裁規定と相まつて使用者の恣意的な解雇を行政的に監督防止するにあり、除外認定を得ることをもつて即時解雇の有効要件とした趣旨ではないと解するのが相当であるけれども、これとは別に、就業規則において懲戒解雇の効力を除外認定の有無にかからせる趣旨の規定を定めることはもとより差しつかえなく、かような就業規則の規定は解雇の自律的制限として使用者を拘束するものというべきである。これを本件についてみると、以下の理由により、就業規則第七六条第六号は、単に前記法案と同一の趣旨を再言したというにとどまらず、懲戒解雇には必ず除外認定を要する旨を明示したものと解すべく、会社主張の如く除外認定を得なくとも懲戒解雇をなし得る旨を定めたものとは解し得ない。すなわち、右解釈は就業規則第七六条第六号の文理に忠実な解釈であるばかりでなく、解雇できる場合をすべて規定した就業規則第五二条において、同条本文および第一号ないし第四号で通常解雇には予告又は平均賃金を支払い、同条本文但書および第五号で懲戒解雇には予告又は平均賃金の支給はしないと明確に規定し、平均賃金を支払えば行政官庁の認定を受けなくても、懲戒解雇できる旨の明文規定が右就業規則に見当らず、またそう解すべき余地のある規定もうかがえないし、就業規則の歴史的沿革、社会的機能からして、就業規則の労働条件に関する規定は、使用者の恣意的判断から労働者を守ることが最も重要な存在理由になつているのであるから、その解釈にあつては労働者を保護する方向に厳格にこれをしなければならないからである。

そうすると、行政官庁の除外認定を受けないでなされた申請人に対する本件懲戒解雇は就業規則第七六条第六号に違反し、その効力を生じないものと言わなければならない。

よつて、その余の点について判断するまでもなく、申請人に対する本件懲戒解雇は無効である。

三被申請人主張6(通常解雇)について判断する。

会社は労働者の非行が就業規則所定の通常解雇事由に該当しないが懲戒解雇事由に該当する場合に、これを懲戒解雇しないで、懲戒解雇理由と同一の理由で通常解雇することは、労働者にとつて懲戒解雇されるよりも利益であるから、右就業規則第五二条第五号の規定に準じて許されると主張するので判断する。

一般的に言つて使用者は就業規則に通常解雇事由およびその手続を定めた場合には、その規則に拘束され、自由に通常解雇できず、労働者もその利益を有するのであるから、原則として通常解雇事由として定められた事由以外の理由および自由な手続で通常解雇することは許されないが、懲戒解雇がその事由および手続上許される場合に、懲戒解雇しないで通常解雇することは労働者にとつても利益であるから許されるものと解すべきである。しかしながら、会社の右主張は懲戒解雇がその事由および手続上許されることが前提になつて始めて、労働者にとつて通常解雇される方が利益だとの判断が出来るところ、本件懲戒解雇がその手続上許されないこと前述のとおりであるから、就業規則第五二条第一号ないし第四号に規定する通常解雇事由のない(この事由の存在については主張も立証もない)申請人に対し労働者に利益だからとの理由で就業規則第五二条第五号を準用して通常解雇することは許されないものと言わなければならない。

よつて、その余の判断をするまでもなく、会社の通常解雇の主張は採用することができない。〈以下略〉

(秋山正雄 梶本俊明 馬渕勉)

(別紙) 就業規則

第五二条 従業員が左の各号の一に該当するときは三〇日前に予告するか又は三〇日分の平均賃金を支給して解職する。

但し第五号により解職する場合は予告又は平均賃金の支給は行わない。

一、傷病の為精神又は身体に故障を生じ業務に耐えないと認められるとき。

二、労働能率又は技術が劣悪であつて向上の見込がないと認められるとき。

三、業務上の傷病により打切補償を行つた者について解職の必要があるとき。

四、第四二条第三号の該当により休職を命ぜられた者の休職期間が満了したとき。

五、懲戒委員会の決定により懲戒解雇処分に附せられたとき。

第七五条 従業員が次の各号の一に該当するときはこれを懲戒する。

一、職務を著しく怠つたとき。

二、会社の諸規定命令に違反したとき。

三、会社の体面を汚したとき。

四、故意又は重大なる過失によつて会社に不利益を及ぼしたとき。

五、その他特に不都合の行為があつたとき。

第七六条 懲戒は次の区分により、その行為の軽重に従つてこれを行う。

一、譴責 始末書をとり将来を戒しめる。

二、減給 始末書をとり一回につき平坪賃金の半日分、総額において当該賃金支払の総額の一〇分の一を超えないで行う。

三、出勤停止 始末書をとり七日以内出勤を停止し、その期間欠勤の取扱とする。

四、停職 始末書をとり三ケ月以内の期間を定めて行いその期間欠勤の取扱とする。

五、諭旨解雇 譴責した上で退職願を提出させる。

六、懲戒解雇 行政官庁の認定を受け即時解雇する。

第七八条 懲戒は懲戒委員会の議を経てこれを行う。

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